GPSデータだけではない

ロケーション広告を扱うテクノロジープレイヤーとして、様々な会社が国内外で活動している中、ユーザーへのより良いアプローチを設計する上で、どのような位置情報を扱っているのか知る必要がある。例えばIPアドレスの様な、詳細なロケーションの特定が難しい元データを、緯度経度に変換することも可能なため、データソースは何かという視点は常に持っておきたい。

スマートフォンの位置情報に関するデータとして、GPS測位データ、Wifi測位データ、そしてモバイル通信基地局測位 (三角測量法)データがある。

その中で、一般的に精度が高いと認知されているGPS測位は、スマートフォンの普及により、より身近な利用が可能となっている。十進法で表した緯度経度は、小数点以下6桁の最下位の1の違いは11cmほどだが、実際にはGPS衛星測位精度自体に数メートルの誤差が存在する (日本だと、1-4mの誤差。平均的に2.73m.)。また、GPS測位精度は天候に左右される、屋内や周辺に高層ビルなどが立ち並んでいるエリアでも、その精度は落ちる。

次にWifi測位データに関してだが。まず、原理として、どの様に位置を特定しているのか説明する。スマートフォンは、Wifi機能をオンにしている状態において、定期的に周辺の無線Wifiアクセスポイントを検知しようとする。この際、その無線Wifi端末ネットワーク側では、検知を行った端末(ここでは、検知を行ったスマートフォン)のMACアドレスを知ることができる。つまり、検知を行ったスマートフォンは、その無線Wifi端末の設置場所に近いと認知することができる。ただ、この原理には、いくつかのハードルが存在する

まずは、精度の問題だ。注意深いスマートフォーンオーナーであれば気づくかもしれないが、無線Wifiアクセスポイントをスキャンニングしている際、かなり遠方のWifiアクセスポイントまで検知していることがわかる。場合によっては、50m-100mほどの距離まで電波が届く。つまり、単純に、このシンプルな検知をベースとした測位法だと、50m-100mほど誤差があると言える。検知の際の電波の強度によって、距離がなんとなく近いか遠いか判定できなくもないが、電波の強度は、どういった建物に囲まれているか、その建物の建築材は何かでも、大きく異なってくる。そのため、1つのWifiアクセスポイントへの通信だけでは、電波の強度を使用しても、「どの方角にどの程度離れているか」の特定は難しい。周辺の無線Wifiアクセスポイントまで所有しているネットワークであれば、3点測位などを用いて精度を改善することはできるが、ありとあらゆるエリアで、そのようにネットワークを展開するには、巨額の設備投資とメンテナンス費用である。

二つ目の問題が、まさに、上述の点だ。1点測位を行うにしても、前提として、無線Wifi端末を多数所有していないと、大規模なスマートフォーンの位置の特定ができない。また、実際のスマートフォーンの広告配信エコシステムにおいて、MACアドレスは使用されない。つまり、MACアドレスを、広告配信で一般的に使用されるIDFAやAAIDに紐付ける必要がある。

最後に、基地局アンテナ三角測量法に関してだが、その名の通り、携帯電話キャリアが扱う基地局を指している。一般的に、スマートフォンは回線に接続する際に、近辺の複数の基地局に対して、端末自身の情報(IMEIなど)を送信する。キャリア側では、基地局の絶対位置がわかっているので、到達電波の信号強度や時間差から、その端末の現在地を測定できる。その精度だが、基地局の分布に依存する。

番外編: ビーコン

新しい位置情報の可能性として、ビーコンを話題になることがある。そして、よくある誤解が、「ビーコンの端末自体が位置情報を取得している」というものだ。ビーコン端末自身がGPS機能が搭載されていると、バッテリーが半年ももたない。

ビーコンはBluetoothを介して特定のアプリとコミュニケーションができ、その際、アプリ側で、位置情報が把握できる。ビーコンを活用してありとあらゆるユーザーの位置の把握を試みるには、ビーコンを大量に配布し、そのビーコン設置場所と静的な位置情報のマッピングを行う必要がある。

アプリから取得できる緯度経度はGPSがソースなのか?

正確なロケーション広告を行うにあたり、アプリから取得できる位置情報を活用するケースがもっとも多い。データの種類と精度の違いは、前項で紹介したが、アプリから取得できる緯度経度情報は、GPS測位から取得できたものなのだろうか?

答えは、必ずしもそうではない、が正しい。

スマートフォンでは、OS側の処理として、先述のGPS測位、Wifi測位、基地局三角測量法、すべて活用し、高精度を実現している。例えば、OS提供会社であるAppleもGoogleも、位置情報を許可しているモバイル端末のGPSを介して緯度経度の座標にアクセスできる。同時に、検知している周辺の無線Wifiアクセスポイント情報も取得でき、繋がっている基地局IDも取得できる。簡単に言えば、両社とも、GPSで取得できる座標と、無線Wifiアクセスポイントおよび基地局IDを紐付けデータベース化し、常に改善している (現在では、Bluetooth端末情報も使用している)。つまり、スマートフォン端末があるWifiアクセスポイントをスキャンしただけで、そのユーザーの大まかな位置が、GPSとの交信を利用する必要もなく、瞬時に判定できる。また、周辺に複数のWifiアクセスポイントが密集していたなら、三角測量法を用いて、その精度は更に改善する。

スマートフォンでは、GPS測位が時間もかからずにすぐに行えそうな場合にGPS測位を行い、そうでない場合(例えば屋内や地下街)は、高精度な位置情報データベースを活用している。それにより、バッテリーの減りを抑えながら、高精度の位置情報の取得を可能にしている。

アプリ経由で取得できる緯度経度は、GPS測位をベースとし、OS側で、その瞬間に、もっとも適切な緯度経度を自動的に選択した結果である。

「準天頂衛星みちびき」による影響

日本の衛星測位システムである準天頂衛星みちびきが打ち上げられ、2018年には4機運用される。これにより、日本におけるGPSの精度が圧倒的に向上し、その誤差は、数センチとも言われている。
スマートフォンのGPSの精度もさらに改善され、ロケーション広告でも恩恵が得られるのでは、という期待がある。実際に、みちびきに対応したスマートフォンリストも公開されているのだが、誤解を生みやすい状況に拍車をかけている。GPSの精度が格段に良くなるのは間違いないのだが、その数センチの精度を取得するには、専用の受信機が必要になる。その費用は少なくとも100万円以上かかり、また、サイズ的にもスマートフォン内部に入るサイズではない。

みちびきは、実際には、異なる3つのサービスを提供するのだが、それぞれ精度が異なる。

  • 衛星測位サービス:GPSと同等の誤差
  • サブメータ級測位補強サービス:誤差1~2m程度
  • センチメータ級測位補強サービス:誤差6~12cm程度

スマートフォンが対応しているのは、現時点では、衛星測位サービスのみで、精度は従来のGPSと変わらない。ただ、みちびき自体が天頂付近に長い時間留まるため、ビルの谷間などのGPSがあまり入らなかったエリアでも、安定的に位置情報を提供できるようになる。