米国におけるロケーション(位置情報)広告の市場規模

2017年に発表されたBIA/Kelseyのリサーチによると、米国のLBM (Location Based Marketing = ロケーション広告)市場は、 2016年度時点で、120億ドル(約1.35兆円)であったが、2021年には、320億ドル(約3.6兆円)になると予測されており、年間平均成長率は21%という計算になる。320億ドルという規模は、全体のモバイル広告市場(720億ドル)の45%にも及ぶ。2016年度には、全体の38%であったため、その伸長ぶりは非常に顕著だ。

モバイル広告市場の伸びとロケーション広告への注目

E-Marketerのリサーチによると、米国における2016年のデスクトップとモバイルにおける広告費の割合は、デスクトップが51.6%(約4兆円)に対し、モバイル48.4%(約3.7兆円)とデスクトップ向けの広告費が大きかったが、2017年にはモバイル向け広告費が59.9%(約5.3兆円)と、デスクトップを逆転する見込みであり、またそのトレンドは2021年に向けて急速に拡大84.2%のシェア、約12.8兆円)すると予測されている。

そのような環境下、2016年度時点で、78%のモバイルマーケターは、ロケーション広告への増額を行っており、ロケーション広告への期待と投資がうかがえる。

なぜロケーション広告なのか?

ロケーション広告の成長を語る上で、新しいモバイル端末であるスマートフォン・タブレットの普及率を理解することは必須だ。

スマートフォン・タブレットの普及率は、2016年度で米国の人口に対して79%ほどあり, 2021年には97%になると考えられている。 すでに、スマートフォンを中心としたライフスタイルが確立されており、メッセージ、SNS、ブラウジングなどは、この優秀な「小さなコンピュータ」上で行われる。

必然的に、可処分時間の多くは、スマートフォン・タブレット端末で消費され、どこにでも持ち運びできるこのポータビリティが、まさにロケーション広告に自然にフィットすると言える。Google が発表している検索に関するレポートによると、30%以上のクエリが特定のロケーションに対して行われていることからも、その傾向が確認できる。

ロケーション広告に注目すべき理由はまだある。米国リテール業界において、E-コーマースの取引額はたったの7%であり、残りの93%(約37兆円)はオフラインで行われていることがわかっている。オフラインの購入に繋げるためには、オンラインのユーザーの動きも理解した上でのO2Oマーケティング戦略が大事になっており、特に売上のインパクトを考えた場合、送客ができる仕組みづくりに注力するのは自然なことである。

エリア(ジオ)広告 vs. ロケーション広告

日本においては、エリア広告、ジオ広告、ロケーション広告をなんとなく、「オフラインに関する広告」という定義で使われることも少なくない。言葉自体の意味だけで判断すると、特に同義語と捉えても不自然ではないが、ロケーション広告の先進国である米国において、明確な違いがある。

ロケーション広告が圧倒的な注目をされ、今後、大きな成長を期待されている背景として、スマートフォンを中心としたライフスタイルのシフトが挙げられる。消費者は、情報を検索する際、オフィスや自宅のコンピュータ前にいる必要がなくなり、常に他人とSNSを介して繋がることができ、例えば駅などで電車を待っているわずかな可処分時間でも、その消費が可能になった。

そのモバイルセントリックな行動をさらに促進しているのが、「アプリ」だ。ユーザーのコンテンツへの入り口は、ポータルでもブラウザでも、その「お気に入り」でもなく、アプリである。自分が好むコンテンツやサービスを提供するアプリをストアからダウンロードし、すぐにアクセスできるスマーフォンのホーム画面へ陳列する。

アドテクノロジーのエコシステムに存在するプレイヤーは、モバイル端末、そしてアプリを介して取得できるデータの多様性に、様々な恩恵をうけているが、その特徴的なデータの一つとして、「緯度・経度」情報がある。

「緯度経度」情報 (座標とも呼ばれる)は、ユーザーがいる地理的な位置をピンポイントに把握することが可能だ。そして、その緯度経度情報を使用してサービスを提供しているアプリは年々増加傾向である。経路検索から、現在地周辺検索、チェックイン、などなど。 ロケーション広告への期待は、いわばそこにある。緯度経度情報を中心としたロケーション情報は、ユーザーのモバイル中心のライフスタイルから、ユーザーの潜在的、顕在化されたニーズの把握、そのコンテキストの理解を得る重要な手がかりになるのだ。

エリア(ジオ)広告とロケーション広告の違いに話しを戻すと、エリア広告は、1対1のユーザーに紐づくことのない、「静的」な地理的、エリア的特徴を狙ってターゲティングする広告を指す。デスクトップ・PCの世界でも行われていたが、都道府県ターゲティング、市区町村ターゲティング、郵便番号ターゲティングなどは、エリアターゲティングだ。町丁目レベルのデータは、デスクトップでは取得することができないが、たとえば、折り込みチラシなどは、町丁目レベルでもターゲティングがなされるため、優秀なエリアターゲティングの一つである。そのターゲティングの精度をあげるために、国勢調査の統計情報が用いられることが多い。例えば、東京都千代田区永田町一丁目は、「家族で住んでいる人はあまり多くなく、独身世帯が多いが、世帯年収は高い」と判断した上で、クライアントが欲しいターゲティングエリアか判断する、もしくは、適切なキャンペーンや広告表現を行う、と言った具合だ。

一方、ロケーション広告の核となる部分は、ユーザーに紐づく「動的」な位置情報だ。その動的な情報をベースとし、ユーザーごとのオフラインの行動を把握する。例えば、ユーザーAが自動車ディーラーに訪問したのであれば、ほぼ、間違いなく、自動車購入への確度が高まっているだろうし、21:00以降に千代田区永田町一丁目に頻出しているのであれば、ユーザーAの居住地がそのエリアだろうと想定できる。そのためロケーション広告は、一人、一人のオフラインの行動で、ユーザーの趣味嗜好を推測しターゲティングできる新時代のオーディエンスターゲティングとも言える。

また、ロケーション広告のもう一つの特徴は、オンライン上でのアクティビティでは捉えられなかったユーザーを捉えられる可能性が挙げられる。例えば、生活消費財は、膨大な量が日々購入されるわけだが、その商品のほとんどは、積極的にデジタルで検索もされなければ、SNSで「Like」もされない。今までは、最終購入地点の流通店舗に訪問した際に、プロダクトイメージがトリガーされるためにTV広告を打つ、流通店舗のエリアごとに決められた静的な商圏内で、OOHや折込チラシを実施するいうのは、理にかなっていた。

ロケーション広告の世界では、流通店舗の商圏を数学的に分析にし、ユーザーの特性も理解した上で、それぞれのユーザーにより良いアプローチをすることが可能になる。

日本におけるモバイル広告市場規模

ロケーション広告市場規模の予測を行うためには、まずは米国の市場規模予測に倣い、日本のモバイル広告市場を理解する必要がある。

2016年の5,530億円から2017年は7,190億円と+30%の成長が見込まれ、モバイル広告費がディスプレイ広告費を上回ることが予測されている(E-Marketer, Total Media Ad Spending in Japan, by Media, 2015 & 2016)。更にその比率は2016年の48.1%から2020年には73.8%とモバイルへのシフトが急速に進み、約1兆円規模の市場となる。

日本におけるロケーション広告市場規模予測

日本のモバイル広告市場の数字に、BIA/Kelseyのリサーチペーパーにある米国市場のロケーション広告比率、年間成長率を適用した場合、2020年には全てのロケーション広告市場(サーチやソーシャルを含む)が約4439億円と予測できる。また、サーチやソーシャルなどを除いたロケーションディスプレイ広告市場規模は、826億円に到達することが予測される。